個人再生が認可されない場合
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(最終更新日2022.3.22)
個人再生は,再生計画の認可決定を受け,認可を受けた再生計画に基づいて弁済をしていくという手続になりますが,再生計画が不認可となる場合もあります。以下では再生計画が不認可となる事由について説明していきます。
特に重要となるのは,再生計画がきちんと遂行していけるのか,清算価値保障原則の要件は充たされているのか,安定した収入はあるのか,最低弁済基準額を充たしているのかという要件になります。
1 再生計画不認可事由
民事再生法第174条第2項には,再生計画不認可の決定をする場合として,次のように定められています。
この不認可事由は,一般の不認可事由と呼ばれています。
民事再生法第174条
2 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
一 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し、かつ、その不備を補正することができないものであるとき。ただし、再生手続が法律の規定に違反する場合において、当該違反の程度が軽微であるときは、この限りでない。
二 再生計画が遂行される見込みがないとき。
三 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。
四 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。
以下,それぞれの内容について説明します。
再生計画における法律違反(民事再生法174条2項1号)
再生手続または再生計画が法律の規定に違反し,かつ,その不備を補正することができない場合に再生計画が不認可とされます。
ただし,再生手続の法律違反が軽微な場合には,裁判所の合理的な裁量により,認可決定ができるものとされています。再生手続の法律違反に限られますので,再生計画に法律違反があった場合には,軽微なものであっても認可決定をすることはできません。
再生計画が遂行される見込みがないとき(民事再生法174条2項2号)
再生計画を遂行できないことが積極的に認定できるときには裁判所は再生計画の認可決定をすることはできません。
再生計画の決議に不正があったとき(民事再生法174条2項3号)
再生計画の決議は再生手続の中でもとりわけ重要な意味があるので,あらゆる意味で不正があってはならないという趣旨で独立して定められています。
再生債権者の一般の利益に反するとき(民事再生法174条2項4号)
再生債権者全体としての利益が実質的に害される場合には,裁判所は再生計画の認可決定をすることはできません。
代表的な例として,再生計画による弁済が破産手続きによる配当を下回る場合がこれに当たるとされています。そのため,個人再生の最低弁済額を計算する際に,清算価値との比較で最低弁済額が定められることになります。
そのことを「清算価値保障原則」と呼びますが,この条項からそれを読み取ることができます。
2 住宅資金特別条項を定めた場合の不認可事由
1 再生計画不認可事由で説明した内容に加えて,住宅資金特別条項を定めた場合には,次に説明する内容も再生計画の不認可事由となります。
この不認可事由を住宅資金特別条項を定めた場合の不認可事由と呼びます。
民事再生法第202条第2項
裁判所は、住宅資金特別条項を定めた再生計画案が可決された場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、再生計画不認可の決定をする。
一 第百七十四条第二項第一号又は第四号に規定する事由があるとき。
二 再生計画が遂行可能であると認めることができないとき。
三 再生債務者が住宅の所有権又は住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれるとき。
四 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。
以下,それぞれの内容について説明します。
一般の不認可事由と同様のもの(民事再生法202条2項1号・4号)
民事再生法174条2項1号・4号の内容については,1 再生計画不認可事由で述べたものと同じになります。
また,民事再生法202条4号の決議が不正な方法によって成立したときというのも,一般の不認可事由の決議に不正があったときと同じです。
再生計画が遂行可能であると認めることができないとき(民事再生法202条2項2号)
一般の不認可事由では,「再生計画が遂行される見込みがないとき」という定められかたをしていましたが,本条では,積極的に遂行可能であると認められない場合には再生計画が不認可とされることになります。
これは,住宅ローンの返済は長期に及ぶものになるため,住宅ローン債権者保護のために遂行可能性を厳しく考えるというためです。
住宅の所有権を失うこととなると見込まれるとき(民事再生法202条3項前段)
住宅資金特別条項を定める目的は住宅の保持を認めるためであるので,住宅の所有権を失ってしまうような事情がある場合には住宅資金特別条項を認める理由がなくなってしまうため,不認可事由とされています。
租税の滞納により租税庁が滞納処分を行った結果として住宅の所有権を失う場合が典型例とされています。
住宅の敷地の使用権を失うこととなると見込まれるとき(民事再生法202条3項後段)
住宅の所有権を失う場合と同じく,敷地の使用権を失えば結局住宅を失ってしまうことになるため,不認可事由として定められています。
3 小規模個人再生に固有の不認可事由
以上の不認可事由に加え,小規模個人再生を申し立てた場合には,小規模個人再生に固有の不認可事由も定められています。
したがって,住宅資金特別条項を定めた小規模個人再生の場合には,一般の不認可事由・住宅資金特別条項を定めた場合の不認可事由・小規模個人再生に固有の不認可事由のいずれかが認められれば不認可の決定がなされます。また,住宅資金特別条項を定めない小規模個人再生の場合には,一般の不認可事由と小規模個人再生に固有の不認可事由のいずれかが認められれば不認可の決定がなされることになります。
小規模個人再生に固有の不認可事由は,民事再生法第231条第2項に定められています。
民事再生法第231条第2項
小規模個人再生においては、裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合にも、再生計画不認可の決定をする。
一 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき。
二 無異議債権の額及び評価済債権の額の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び第八十四条第二項に掲げる請求権の額を除く。)が五千万円を超えているとき。
三 前号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が三千万円を超え五千万円以下の場合においては、当該無異議債権及び評価済債権(別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権及び第八十四条第二項各号に掲げる請求権を除く。以下「基準債権」という。)に対する再生計画に基づく弁済の総額(以下「計画弁済総額」という。)が当該無異議債権の額及び評価済債権の額の総額の十分の一を下回っているとき。
四 第二号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が三千万円以下の場合においては、計画弁済総額が基準債権の総額の五分の一又は百万円のいずれか多い額(基準債権の総額が百万円を下回っているときは基準債権の総額、基準債権の総額の五分の一が三百万円を超えるときは三百万円)を下回っているとき。
五 再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をした場合において、再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき。
以下,それぞれの内容について説明します。
将来の継続的または反復的収入が見込まれないとき(民事再生法202条2項1号)
小規模個人再生手続は,将来の収入による弁済計画が基本になるため,収入がない場合には小規模個人再生手続を利用することはできないことによるものです。
債務限度額の超過(民事再生法202条2項2号)
小規模個人再生を利用することができるのは債権額5000万円(住宅ローン債権等は除く)までであるため,それを超える場合には不認可とされます。
(具体例)
元本は5000万円以下でしたが、申立てまでの準備に長期間かかってしまったため、利息や遅延損害金を合計すると5000万円を超えてしまうような場合。
このような場合にはこの要件を充たさないため、不認可とされてしまいます。
計画弁済総額が最低弁済基準額を下回っているとき(民事再生法202条2項3号・4号)
再生計画が最低弁済基準額(債務額が3000万円~5000万円の場合には10分の1,債務額が1500万円~3000万円の場合には300万円,債務額が500万円~1500万円の場合には債務額の5分の1,債務額が100万円~500万円の場合には100万円,債務額が100万円以下の場合には全額)を下回っている場合には再生計画の認可決定はなされません。
小規模個人再生の最低弁済額についてはリンク先のページで詳細を説明しています。
債権者一覧表に住宅資金特別条項を定める旨を記載したにもかかわらず,住宅資金特別条項を定めなかったとき(民事再生法202条5号)
住宅資金特別条項を定める旨を記載しておきながら住宅資金特別条項の定めをしなかった場合には,一種の制裁として再生計画を不認可とするとされています。
実際には裁判所などから確認がありますので、この要件で不認可とされてしまうことは少ないと考えられます。
4 給与所得者等再生に固有の不認可事由
以上の不認可事由に加え,給与所得者等再生を申し立てた場合には,給与所得者等再生に固有の不認可事由も定められています。
したがって,住宅資金特別条項を定めた給与所得者等再生の場合には,一般の不認可事由・住宅資金特別条項を定めた場合の不認可事由・小規模個人再生に固有の不認可事由・給与所得者等再生に固有の不認可事由のいずれかが認められれば不認可の決定がなされます。また,住宅資金特別条項を定めない小規模個人再生の場合には,一般の不認可事由と小規模個人再生に固有の不認可事由・給与所得者等再生に固有の不認可事由のいずれかが認められれば不認可の決定がなされることになります。
給与所得者等再生に固有の不認可事由は民事再生法第241条第2項に定められています。
裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
一 第百七十四条第二項第一号又は第二号に規定する事由(再生計画が住宅資金特別条項を定めたものである場合については、同項第一号又は第二百二条第二項第二号に規定する事由)があるとき。
二 再生計画が再生債権者の一般の利益に反するとき。
三 再生計画が住宅資金特別条項を定めたものである場合において、第二百二条第二項第三号に規定する事由があるとき。
四 再生債務者が、給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者に該当しないか、又はその額の変動の幅が小さいと見込まれる者に該当しないとき。
五 第二百三十一条第二項第二号から第五号までに規定する事由のいずれかがあるとき。
六 第二百三十九条第五項第二号に規定する事由があるとき。
七 計画弁済総額が、次のイからハまでに掲げる区分に応じ、それぞれイからハまでに定める額から再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な一年分の費用の額を控除した額に二を乗じた額以上の額であると認めることができないとき。
イ 再生債務者の給与又はこれに類する定期的な収入の額について、再生計画案の提出前二年間の途中で再就職その他の年収について五分の一以上の変動を生ずべき事由が生じた場合 当該事由が生じた時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額からこれに対する所得税、個人の道府県民税又は都民税及び個人の市町村民税又は特別区民税並びに所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第七十四条第二項に規定する社会保険料(ロ及びハにおいて「所得税等」という。)に相当する額を控除した額を一年間当たりの額に換算した額
ロ 再生債務者が再生計画案の提出前二年間の途中で、給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者でその額の変動の幅が小さいと見込まれるものに該当することとなった場合(イに掲げる区分に該当する場合を除く。) 給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者でその額の変動の幅が小さいと見込まれるものに該当することとなった時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を一年間当たりの額に換算した額
ハ イ及びロに掲げる区分に該当する場合以外の場合 再生計画案の提出前二年間の再生債務者の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を二で除した額
以下,それぞれについて説明します。
民事再生法174条2項1号または2号に定められた事由(民事再生法241条2項1号)
これまでに述べたものと同じです。
再生計画が再生債権者の一般の利益に反すること(民事再生法241条2項2号)(清算価値保障原則)
これまでに述べたように様々な内容を含むものにはなりますが,最も重要なものは清算価値保障原則であるといわれています。
(具体例)
申立時に所有していた財産が、車100万円、保険の解約返戻金100万円、株式等が100万円の合計300万円であったにもかかわらず、総額で200万円しか返済しないというような再生計画を定めた場合。
財産内容等に疑問点があれば、裁判所からの質問等がありますので、要件を充たしていないにもかかわらず修正を行わないような場合を除いてこの要件で不認可とされることはないと考えられます。
住宅資金特別条項を定めた場合に民事再生法202条2項3号に定める事由があること(民事再生法241条2項3号)
住宅資金特別条項の場合と同じ内容ですが,給与所得者等再生では決議がないため,別に定められたものになります。
給与等定期的な収入を得ていないか,その額の変動が小さいと見込まれる者に該当しないこと(民事再生法241条2項4号)
確実に定期的な収入を得ていない場合にはそのことが明らかになった時点で再生計画は不認可とされます。
民事再生法231条2項2号から5号までに規定する事由のいずれかが存在すること(民事再生法241条2項5号)
小規模個人再生に固有の不認可事由のうちの一部の要件がそのまま給与所得者等再生の不認可事由となっています。
破産法による免責決定が確定した日から7年以内の申立てであること(民事再生法241条2項6号)
免責確定から7年以内に申立てがなされた場合には再生計画の不認可事由となっています。
再生計画案が可処分所得基準の要件を充たしていないとき(民事再生法241条2項7号)
給与所得者等再生では,可処分所得の2年分以上の返済をしなければなりませんが,その基準を充たしていない場合には再生計画が不認可とされます。
可処分所得は,簡単にいうと収入金額から生活保護法で用いられる生活費等を差し引いて算出されますが,詳細については別途説明したいと思います。
以上が個人再生が認可されない場合の説明となります。
ご不明な点がありましたら,リーベ大阪法律事務所までお気軽にお問い合わせ下さい。
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この記事を書いた弁護士
弁護士 谷 憲和(大阪弁護士会所属)
弁護士登録以来10年以上にわたって,債務整理・自己破産・個人再生を取り扱っています。
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